『ボッコちゃん』
星新一氏の長編ファンタジー『ブランコのむこうで』。表紙の装丁を新しくしたのを機に新しい読者を獲得し、部数を伸ばしているそうです。そのものに何の変わりはなくても、光のあるなしや光の当たり方によって、まるでちがったものに見えたりしますが、本というのも中身だけではなく、まるごと含めて本、ということなのでしょうか。
我が家にも星さんの本は何冊かあったはずだと書棚をさがしてみるとぞろぞろ出てきました。星さんの小説はまずタイトルがすばらしい。『宇宙のあいさつ』『たくさんのタブー』『妖精配給会社』『妄想銀行』『ひとにぎりの未来』『にぎやかな部屋』『ちぐはぐな部品』『午後の恐竜』…。なさそうでありそうな真実のおとぎの世界を連想させます。
星さんの本の装丁はほのぼののどか、牧歌的な宇宙の光景のようです。『宇宙のあいさつ』はとくに好きです。表紙は和田誠さん。挿絵も描かれています。キュートでとぼけた感じがよい感じ。そもそも宇宙のあいさつって何なのでしょう。受信したいようなしたくないような。
星さんといえば私は『ボッコちゃん』。自選50編からなるショートショート集。どれもこれも切なく冷たくおもしろくこわいです。一編読み終わるごとに、本を放り投げてしまいたくなるこわさ。どの作品もブラック(ホワイト)ユーモアに満ち満ちていますが、底流に人間への深い理解と愛情があるように思います。だからふたたび本を手にとり、さらにもう一編と読んでしまいます。冷たくて暖かな人なのだと思います。
私がとくにこわくてぶるぶる震えたのがその『ボッコちゃん』のなかの「ボッコちゃん」。ボッコちゃんはロボットで、美人だけど頭はからっぽです。話す言葉はただのおうむ返しで、その言葉には何の意味も感情もないのですが、人々はボッコちゃんをロボットと気づかず、ボッコちゃんの態度と言葉に引き寄せられ、恋する者まで出てきます。
言葉のやりとりの虚と実、意味と無意味、人間関係の蜜と毒をズヴァリ描いた作品です。愛しくも哀しいボッコちゃん。ボッコちゃんには何の罪もわるぎもないのだけれど。そして誰もいなくなる。ボッコちゃん的なるものはこの世のいたるところ私の中にもあるのだと思います。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
chiikoさん,こんにちは。
「親しげな悪魔」という作品を高校の文化祭で芝居にしました。(題名が若干違っていたらすみません。)悪魔でも,「無から有」は生み出せないよというようなお話だったと思います。
HNKの「中学生の勉強室」で出てきた,「おーい,でてこい」も今思うと同じようなテーマでしょうか。何でも処理してくれるような便利なものはないよといった・・・。
真鍋博氏の近未来的な無機質なイラストと共に,いろいろ当時のことを思い出しそうです。
投稿: なも | 2005.06.11 11:03
なもさん、こんにちは!
「親しげな悪魔」というのは「おのぞみの結末」に入っているものでしょうか。私はこの作品はまだ読んだことがありません。
『ボッコちゃん』の一番最初に「悪魔」という作品が載っていて、これも無から有は生み出せないよみたいなお話だなと、いま読み返して思いました。
星さんの文章は詩的だなと思います。
真鍋博さんのイラストもいいですよね。ボッコちゃんの表紙も奇妙奇天烈で、とてもいい感じです。
なもさん、どうもありがとうございます。
ではまた!
投稿: chiiko(なもさんへ) | 2005.06.11 15:10
こんにちわ
ひとつの装置という作品でショートストーリーの面白さに
引き込んだでくれた作家さんです。
長編も書いているのをはじめて知りました。
ボッコちゃんもそうだと思うのですがSFが多いですよね。
ただ、現実と密接に繋がって、はっとさせられる結末に
いつも感動しています。
思い出すとまた読みたくなる本だと思います
投稿: persian | 2005.06.11 15:56
persianさん、こんばんは!
persianさんにとっては星新一さんは「ひとつの装置」なんですね。
妖精配球会社に入ってます。
星さんの作品はショートでもショートではないですよね。
そして多くを語らずに多くを語ってくれています。
私も今回、読み直してみて、これは今ここにある現実を描いているなと感じました。
星さんってすごい人です。
どうもありがとうございます。ではまた!
投稿: chiiko(persianさんへ) | 2005.06.11 19:53
こんにちは。
星進一さんの本なんて、懐かしいわ!
題名を忘れてしまったけれど、ショートショートの作品で、底が見えない穴が開いていたから、世界中のごみを捨てることにしたら・・・・しばらくして、最初のごみが空から降ってきた、と言うお話を思い出しました。
投稿: XX | 2005.06.11 22:32
「横レス」ですみません。
XXさんのおっしゃっている話が
「おーい,でてこい」です。
投稿: なも | 2005.06.11 22:43
こんばんは。星新一は中学生くらいの時かな・・ずいぶんはまりました。「ボッコちゃん」というのは、僕にはとても懐かしい本です。
「おーい,でてこい」
怖い話だったですね。映像が頭の中に浮かぶような話でした。
投稿: BigBan | 2005.06.12 02:21
XXさん、おはようございます!
XXさんも懐かしいですか。
私も久しぶりに読んでみました。
たぶんそのお話も『ボッコちゃん』に入っている「おーい でてこーい」だと思います。
捨ててもこの世からはなくならないということでしょうか。
最初のごみは小さな石ころです。
きょうもよい一日を。ではまた!
投稿: chiiko(XXさんへ) | 2005.06.12 06:31
なもさん、おはようございます!
なもさんの横レス。
おーい、でてきたよーと出てきてくれた感じです。
いまこちらは晴れてます。
よい一日をお過ごしください。ではまた!
投稿: chiiko(なもさんへ) | 2005.06.12 06:36
BigBanさん、おはようございます!
BigBanさんは中学生のときですか。
私はSF好きの兄の影響で、やっぱり小さい頃に読んでいたように思います。
「ポッコちゃん」って、こんなに深くて怖い話だったのかと今回びっくりしました。
かわいいロボットの話のように記憶していたので。
「おーい でてこーい」。
梅雨の季節、空からどんなものが降ってくるのでしょうか。
きょうもよい一日を。ではまた!
投稿: chiiko(BigBanさんへ) | 2005.06.12 06:45
懐かしいですね。
むか~~し、よく読みました。
星新一。
本棚探せば、出てくるかな?(^^♪
投稿: あんず | 2005.06.12 10:00
あんずさん、こんにちは!
むか~し、よく読んだのですね。
本棚にむかって、おーい、でてこーい
と呼びかけてみてはどうでしょうか。
本棚もさがせばいろいろと出てくるものです。
きょうお天気よかったですね。
リフレッシュできたかな。ではまた!
投稿: chiiko(あんずさんへ) | 2005.06.12 16:21