『しんしん』『ニシノユキヒコの恋と冒険』
朝、目覚めたらホワイトシャドー、向かいの屋根に雪が積もっていた。もういまは降っていないけれど、雪といえば、しんしん。川上弘美さんの短編『しんしん』の最後の場面を思い出す。「ただナウがいないのが、私は淋しいのだ。しんしんと、淋しいのだ。ナウ、と私はよびかける。それから小さな声で、ニシノくん、とも。」ニシノくんも「私」も、誰かを本気で好きにならないように気をつけて生きている。愛するのが怖いのだ。人を愛して、傷つけたり傷つけられたりするのが怖いのだ。人を愛して、正しい人生へ踏み込んで正しい人生を送ってしまうのが怖いのだ。だから愛してしまう一歩手前で歯をくいしばって、ぎりぎりのところで踏みとどまろうとする。2人の気持よくわかる。しんしん。
『しんしん』は『ニシノユキヒコの恋と冒険』の中の短編。
私はドロドロした人間関係を好まないし、ドロドロした恋愛小説も好まない。川上弘美さんの描く恋愛はドロドロしてなくて、私は好きだ。
人間なんて、そもそもみんなリアルでドロドロしているのだけれど、
恋愛なんて、そもそもどれもリアルでドロドロしているのだけれど、
リアルでドロドロしたことをサラリ淡々と書いているからいいなと思う。
川上さんは恋愛論などは書かない方なのだろうか。
私は小説家の書く恋愛論はつとめて読まないようにしている。
特に好きな小説家のものについては。
その人の恋愛観は最後の最後までそっと包み隠しておいてほしい。直接ではなく間接的に小説やエッセイの中でさりげなく書いてほしい。『ニシノユキヒコの恋と冒険』は、川上弘美さんの恋愛観のエッセンス本だと思う。『センセイの鞄』 『パレード』に続き大感動。
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コメント
chiikoさん♪ σ(o^_^o)のBlogに来て下さり また BlogBBSにも
ぉ書き込みをして戴きまして どぅもありがとうございますぅ (∩.∩)
>>> 好きな小説家の書く恋愛論はつとめて読まない。 その人の
>> 恋愛観は 最後の最後までそっと包み隠しておいてほしいし
> 間接的に 小説やエッセイの中で さりげなく書いてほしい…
< σ(・_・)も 全く 上のご意見に同感・共鳴するところデスょ
<< 恋愛( 感情 )の発生は 非論理なものだし、恋愛の方式は
<<< 有っても、、公然と & 昂然と? 論じなければならないょぅな
<<<< 理論と云うものは無いのではないか と思います。 (--;)
註 )) σ(^^)において、恋愛の〝方式〟とは 最終まで秘められた
恋愛観であり 暗喩的に述べられた恋愛観であります… ☆
投稿: KA○ | 2005.02.25 16:48
KA○さん、こんばんは!
恋愛(感情)とはほんと不思議なものですよね。
「恋愛の〝方式〟とは 最終まで秘められた恋愛観であり 暗喩的に述べられた恋愛観」とのこと。
深いお言葉ですね。
秘すれば花。言わぬが花。でしょうか。
これからもよろしくお願いします。
ではまた!
投稿: KA○さんへ | 2005.02.25 19:26
川上弘美さんは読んだことが無いけれど(というよりも,最近小説を余り読まない),かみさんと結婚する前に,いろいろ迷っていて,初めて恋愛論を読んだことを思い出しました。ある人に薦められたのが,ルー・ジュモンだったか,今手元にその本がないので確認できませんが,確かフランスの人の『愛について』という本でした。(当時ですら版元品切れで,神田の岩波書店専門の店に電話で聞いて,買いに行った記憶があります。)私は音楽でしか知らなかった「トリスタンとイゾルデ」の物語の分析を中心にして書かれた本です。当時は一応「必死」だったので,それなりに興味を持って読み進めたのですが,結局未だに読みきってはいません。
投稿: なも | 2005.02.26 05:57
追伸です。アマゾンで調べたら,先に触れた本はその後,平凡社から出ていたようです。しかし,これも「在庫なし」のようです。
愛について―エロスとアガペ〈上〉 平凡社ライブラリー
ドニ ド・ルージュモン (著), Denis De Rougemont (原著), 鈴木 健郎 (翻訳), 川村 克己 (翻訳)
価格: ¥1,509 (税込)
新書: 362 p ; サイズ(cm): 16
出版社: 平凡社 ; ISBN: 4582760147 ; 上 巻 (1993/06)
投稿: なも | 2005.02.26 06:11
なもさん、おはようございます!
本の紹介ありがとうございます。
いろいろ迷って必死だったんですね。
こういう記事を書いておきながら
私もいろいろ迷って必死だった若かりし頃
こたえを求めて恋愛論を読みました。
私が読んだ恋愛論は
福永武彦氏の「愛の試み」
吉行淳之介氏の「恋愛論」です。
愛とはほんとうに摩訶不思議なものですね。
でも、わけがわからないながらも、ちゃんと愛したり愛されたりできるので、またまた摩訶不思議です。
きょうもよい一日をお過ごしください。
ではまた!
投稿: なもさんへ | 2005.02.26 07:35
私にとって雪は「のんのん」です。
東京の雪はなかなか「のんのん」とは降りませんが、雪国の雪は本当に「のんのん」と空から地へ次から次へと降ります。そして音も何もかもすっぱり包んでしまいます。
でも、淋しさは「しんしん」のほうがいいですね。「のんのん」と淋しいだとなんだかチョッピリ寝惚けている感じがします。
川上弘美さんの本はよく考えたらあまり読んだことがない気がします。落ち着いたら読んでみたいな、と想いました。
投稿: muir | 2005.02.26 10:04
chiikoさん、少しお久しぶりですね。
僕も川上弘美さんはあわあわした感じが、たいへんお気に入りです。言葉がきれいですし。「ニシノユキヒコの恋と冒険」は安心して読めますね。
川上弘美さんと言えば、川上弘美さん編(←作ではない!)の「感じて。息づかいを」という短編集(アンソロジー)をおおかた読み終えたのですが、ん~、あわあわじゃないです。とても重い。お勧めしていいのかわからないのですが、読まれる時は覚悟が必要かと。
正直「愛も恋愛も要らない!」という気がしなくもないです。
あと、少し前紹介いただいた「エンタングルメント」たいへん興味深かったです。
投稿: 空耳太郎 | 2005.02.27 00:14
muirさん、おはようございます!
muirさんは雪国で生まれ育った方なのですね。
「のんのん」という表現、初めて知りました。
次から次へと空から地へ降るのですね。
私、南国育ちなので想像もできません。
その何かもすっぽり包んでしまう「のんのん」の中に私もいつか身を置いてみたいな、とmuirさんのコメントを読んで思いました。
川上さんの本。
私は去年の夏、初めて読みました。
しんしんと心に伝わるものがあります。
きょうもよい一日を! ではまた!
投稿: muirさんへ | 2005.02.27 07:23
空耳太郎さん、おはようございます!
空耳太郎さんも川上さんをお気に入りなのですね。
ほんと言葉がきれいです。詩のような言葉遣いですよね。
このニシノユキヒコさん、私とても気に入りました。
「蛇を踏む」「溺レる」はちょっとという感じがありました。
川上さん編のアンソロジーがあるんですね。
重いのですね。いつか覚悟したら読んでみます。
私、実は重くてあわあわしたものが好きなんです。
エンタングルメント。
私にとってはとても夢のある現象です。
きょうは訪問&コメントありがとうございます。
よい一日をお過ごしください。ではまた!
投稿: 空耳太郎さんへ | 2005.02.27 08:18