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2009.03.19

『坊っちゃん』夏目漱石著

坊っちゃん (新潮文庫)

春の朗読発表会で夏目漱石作『坊っちゃん』を読んだ。私が読もうと選んだのは、3章「いよいよ学校へ出た」で始まる《坊っちゃん》先生初授業の場面から。田舎中学の生徒から、先生のべらんめえ調は「あんまり早くて分からんけれ、もちっと、ゆるゆるやって、おくれんかな、もし」と諭され、蕎麦を食べれば「天麩羅先生」と囃され、団子を食べれば「団子二皿七銭」と黒板に書かれ、温泉に毎日通えば「贅沢だ」「赤手拭赤手拭」と言われ、ついには「湯の中で泳ぐべからず」と温泉に貼り札までされる。窮屈で厄介&お節介な世間に放り込まれた自分自身の姿を、俯瞰の視点で生き生きと描き出している。私は坊っちゃんの立場・言葉もわかるし、田舎中学の生徒達の気持ち・言葉もわかる。なぜなら今の私は両者経験済みだから。だからここをぜひ読みたいと思った。私の表現で伝えたいと思った。

朗読は私にとってセラピーだ。この冬、もう一つの朗読発表会もあったので、2つの作品と関わりながら、毎日を朗読とともに過ごしてきた。実際、読まない日もあった。読めない日もあった。でも毎日読んでいた(心の中で)。そんな日々だった。日常が何事もなく順調に進み、夢や希望にあふれているとき、私の喉は開かれ、声も朗々と響き、心と体が天地に通じるような気分になる。しかし一転、まさかの坂で躓き、ふと立ち止まり、歩けなくなり、不安や迷いに襲われた途端に、喉はきゅうきゅうと塞がれ、声が出なくなる。たとえ声が出せても、それは誰か別人の声のように私には聞こえた。喉は私を開閉する扉。声は私の強さと弱さを嘘偽りなく真実にあらわす鏡。

きっとプロの朗読家ならば、日常の感情の起伏など超越してコンスタントな朗読ができるだろう。でも私にはそれはできない。感情の起伏があるならそのまま、この喉と声と付き合っていきたい。ああ私、今、閉じているんだ、ああ今、私、開いているんだと感じながら、揺れながら逞しくなりながら。朗読を自分のセラピーのツールとしていきたい。

さらに思う。その時、何を読むかが大切だ。それはレッスン&ギフト。『坊っちゃん』を読むのが辛い時期もあった。でも読んでみると、その歯切れのよい文体リズム、坊っちゃんの自由闊達な精神世界に朗々と励まされ、私の精神も笑い鼓舞されていった。私が作品を選んだようでいて、実は私は作品に選ばれていたのだ。

漱石先生にとっては書くことがセラピーだったのではないでしょうか。あの青春の頃、自分が『坊っちゃん』を読むなんて思いもしなかった。読んで救われました。癒されました。この作品に出会えたことに深く感謝します。

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コメント

「坊っちゃん」は、子供の頃に読んだきりです。

勧善懲悪で生徒たちとも分かり合って、最後にすべて丸く納まる話かと思っていたら、そうでもないんですよね(私の記憶が確かならば・・・)。
勧善懲悪の話に慣れていた子供からすると、その結末はちょっと消化不良な感じでいました。

でも、後に、中村雅俊さん主演の映画を見たとき、最後に生徒たちが坊っちゃんに「行かないでください!」みたいに(まるで近年の学園ドラマみたいに)言っていたのを見て、「(坊っちゃんの場合は)それはやはりちょっと違うだろう」と思ったのを覚えています。

すべてが丸く納まらなくてもいいんですよね。
個人の中で納まっていれば、それはそれで納まっていることになるのだと思います。

投稿: ケララ | 2009.03.20 22:52

ケララさん、おはようございます!
坊っちゃんの世界は、世間との衝突の連続ですよね。
全然丸くない。尖っている。
分かり合えないし、哀しく切ない世界。
でも、不思議と気持ちが救われました。

雅俊さんが演じたんですね!
私は音楽座ミュージカルで観た畠中君の坊っちゃんのイメージが鮮明です。

今日は朝から晴れ晴れ。よい一日を!

投稿: chiiko | 2009.03.21 06:58

おはよう、chiikoちゃん すごい勉強家だ。やっぱり、読書しないと駄目だね。

投稿: アサバ チサト | 2009.03.29 08:46

ちさとさん、おはよう!
勉強している感じは全然ないけど、朗読していると、心に入ってくるものがあるよ! どうもありがとう。きょうもよい一日を!

投稿: chiiko | 2009.03.30 06:58

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