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2004.09.14

『アフターダーク』読了

 新月直前に 『アフターダーク』 (村上春樹著)を読み終わりました。午後11時56分から翌朝6時52分までのひとつの闇をめぐる物語。発売日9月7日という日付には何か意味があるのかなと発売前から何となく思っていましたが、読みながらその意味に気づき、読み終わった今、やはり意味はあったのだと実感しています。少なくとも私にとってはですけど。9月7日は下弦の月。月は日ごとに光を減じていきました。今、月は闇のなかにすっかり溶け込んでいます。この7日間ぐらい闇のなかにいて闇を身近に感じたことはかつてありませんでした。

『アフターダーク』は境目を越えることについて書いた本だと思いました。光と影、今日と明日、私とあなた、自分の中の2人の自分、2つを分けている境目は夜の闇のなかではなにもかも消えてなくなり、どちらがこちら側なのかあちら側なのか、わからなくなります。
 そもそもそんな境目など最初からないのかもしれない。闇という境界世界では境目がなくなって、言葉もなにも越えた理解が生まれる。人はなかなかわかり合えないけれど、わかり合える人もいる。わかり合える時もある。その時は突然にやってきて突然に去っていく。だから、いつ闇に出会ってもいいようにしておきたい。私はそんなふうに思いました。

 とくに印象に残った文章を書き記しておきます。

「そのとき私は、エリの両腕の中にそっくり自分を預けることができた。私たちは暗闇の中で隙間なくひとつになることができた。心臓の鼓動まで、私たちは分け合うことができた」。
「でもそれが最後だった。それが……なんていうか、私がエリに対していちばん近くまで行くことができた瞬間だった。私たちが心を重ねあわせ、隔てなくひとつになれた瞬間。それからエリと私はどんどん遠く離れていったような気がする。離ればなれになって、そのうちにべつべつの世界で暮らすようになった」。

 たとえいつか別々の世界で離れて暮らすようになったとしても、その人のいちばん近くまで行くことができたと心から思える瞬間があれば、それが愛というものであって、その人を愛した記憶は永遠で、人は次の闇に向かって生きていける。『アフターダーク』を読んで私はこんなふうに思い感じました。

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コメント

こんにちは!

chiikoさんの書き込みに、「『アフターダーク』、はやく読まなくっちゃ!」と思いました。私はいつもなぜか新しいものには疎く、新刊本も発売と同時に入手する、というようなことはほとんどなくて、半年とか1年後にのんびり読んでるのです。けれども今回は、とてもすぐに読みたくなってしまいました。

新月の翌朝、心の中はなぜかとても静かです。
こんなに静かでいいのでしょうか。
けれどもヒタヒタと、流れが決してとどまることはなく、
今日もすべては瞬間瞬間、死にそして新しく生まれています。

それでは、また。

投稿: あやころ | 2004.09.15 06:41

あやころさん、おはよう!
私も新刊本には疎いです。
発売当日に入手して読まなきゃ~とかも全然思わない人です。
でも、今回はこういう流れのなかで読んでみました。
欠けていく月のなかで読むことが私にとっては意味があったのだなと感じてます。
多分こういう経験は二度とないでしょうからすべては必然だったのでしょう。

私もけさはとても静かです。
何かが去っていったような
何かがやってきたような不思議な気分。
ではまたね~

投稿: chiiko(あやころさんへ) | 2004.09.15 07:58

chiikoさん、こんにちわ。
遅ればせながら、アフターダーク読みました。
300頁弱で、活字もゆったりな本なのに、なんだか読んでいる途中も、読んだあともとても消耗しました。
そういえば、春樹さんの作品は、地上と地下みたいな境界をテーマにすることが多いですね。今回は、僕には少し重かった。

投稿: snow_slow_snow | 2004.09.20 11:12

snow_slow_snowさん、こんにちは。
今度の小説は今までのものとかなり違っていましたね。
私は春樹さんの小説を読むときは、
あまり考えずにするすると感じるように読んでいくのですが、
今回は考えながらいろいろなところにひっかかりながら読みました。
消耗したというのは何だかわかる気がします。
もう少し時間をおいて読むとまた違った何かを感じることができるような気がしています。
コメントどうもありがとうございます。ではまた!


投稿: chiiko(snow_slow_snowさんへ) | 2004.09.20 19:44

こんばんは。

アフターダークを読み終えたあと、ふと考えたら
村上春樹の作品は「ノルウェーの森」と「海辺のカフカ」
しか読んでないことに気がつきました(^_^;;)

そこで下記4冊を一気に読みました。おもしろいですね。
特にダンス・ダンス・ダンス。
「風の歌を聴け」
「1973年のピンボール」
「羊をめぐる冒険」(上)(下)
「ダンス・ダンス・ダンス」(上)(下)

まだ未読の作品がわんさかなので、暇を無理やり
作って読んでいこうかなと思います。

投稿: 知恵蔵 | 2004.09.22 18:52

知恵蔵さん、おはようございます!
村上さんの作品で未読がまだまだあるというのは
私にとってはある意味幸せなことで羨ましいです。
これからの読書が楽しみですね。
「ダンス・ダンス・ダンス」は私も大好きです。
最近、五反田君のことをふと思い出してました。
五反田君のことがなんだか気になります。
久しぶりに読んでみたくなりました。
では、また!

投稿: chiiko(知恵蔵さんへ) | 2004.09.23 06:28

chiikoさん、こんにちは。

『アフターダーク』が、Amazonから届きました。

届きました、というよりも、先週の前半にもう既に届いていたのに、包みを開けるのが今日になってしまったというだけのことなのですが(w

今、最初の数ページだけ読んでみていて、なぜかあっ、と思ってchiikoさんにメッセージしてます。明日はアフターダークな日曜日になりそうです。

chiikoさんは新月のときにこの本を読まれたとのことですが、図らずも、私は満月のタイミングと相成りました。なんだかおかしいです。

では、また!

投稿: あやころ | 2004.09.26 01:18

あやころさん、おはよう!
きょうはアフターダークな日曜日なのですね。
満月のタイミングで読むのも、それは意味のあることかもしれませんね。
この世にはよくわからないことがたくさんあるけれど、いつか後になってちゃんとわけがわかって、つじつまが合うようになっている、というのが最近の私の思うところです。
アフターダークを読むことで、私はひとつの境目を越えることができました。
ではまたね!

投稿: chiiko(あやころさんへ) | 2004.09.26 07:08

初めまして。
五反田君が気になるのは僕もです。

僕は映像屋なんですが、村上春樹モノの中では
一番左脳を使うことなく読む事が出来ました。
でもこの後右脳をたくさん使わされる作品が登場してくる
予感をビシバシ感じた事も事実です。
多分、今回の登場人物やエピソードが、例え今回限り
だったとしても、この世界観とそれに対するメッセージは、
今後の村上春樹モノで重要な位置を占めるのではないでしょうか?

まあ、一言興味深い作品でした。。。

投稿: keiki | 2004.10.24 01:36

keikiさん、初めまして。
「アフターダーク」は映像的でしたね。
シーンを見ていくような、カットを見ていくような感じがしました。私はどちらかというと左脳的な物の考え方をするので、今回の小説は、ちょっとしんどかったです。
春樹さんの書く小説世界は左脳と右脳の境界領域のようなものだと私は何となくなく思っています。
私も今回の小説はジグソーパズルの重要なワンピースなのだと思っています。
私は春樹さんの「螢」が好きです。あの短編にある世界観がその後の小説に広がっていったように思っています。あのなかにすべてがあるような感じです。 「アフターダーク」と「螢」の位置づけが似ているなと私は感じました。

五反田君、気になりますよね。
マセラティを見かけると五反田君を思い出します。
今後また五反田君的存在が小説に登場してくるかもしれませんね。
ところで、私は最近になって「ダンス・ダンス・ダンス」の表紙の絵の意味深さに気づきました。
訪問&コメントありがとうございます。では、また!

投稿: chiiko(keikiさんへ) | 2004.10.24 09:27

chiikoさん、こんばんわ。
「螢」を探していたのですが、やっと見つかりました。いままで、片付けた場所が思い出せなかったのです。押入れを見たら、ダンボールの中にしまってありました。chiikoさんの好きな短編、もう内容を忘れてしまったので、折をみてもう一度読もうと思います。

今日は、休み時間が長かったのでoazo丸善へ行きました。ちょっと春樹の作品で気になる部分をもう一度読んで、そのことを自分のblogにも書きたくて。でも見つかりませんでした。それがどういうところかは、今度話させて下さい。本来なら自分のblogに書くべきですが、これが重くて記事が送信できません。すみませんでした。では、また。

投稿: zuzu | 2004.10.25 21:32

zuzuさん、おはようございます!
「螢」の短編集をお持ちなのですね。やっと見つかってよかったですね。黒猫と胸突坂が思い出させてくれたのでしょうか。
私は昨晩「螢」を久しぶりに読み返しました。
週末に和敬塾を訪れて、きのう記事も書いたりして、ふと読みたくなりました。
きょうかあしたかあさってか、いつか感想を書きたいと思っています。

oazo丸善へ行ったのですね。zuzuさんの気になる部分ってどの作品のどこなのでしょうね。気になります。
oazo丸善の記事の時にちょっと書きましたが、「沈黙」という作品もよかったです。読まれたことはありますか。作品集に入っているようです。私は今回初めて読みました。私は「螢」と同じぐらいこの作品のことが好きになりました。

blog、重たいんですね。早く軽くなるといいですね。
いつもどうもありがとうございます。
きょうもよい一日をお過ごしください。では、また!

投稿: chiiko(zuzuさんへ) | 2004.10.26 07:15

chiikoさん、こんばんわ。
胸突坂、懐かしいです。兄夫婦はカテドラル教会で結婚式を挙げましたし、私自身も13年間早稲田のリーガロイヤルホテルのすぐ近くの営業所で働いてました。今は錦糸町の営業所に転勤したのですが、chiikoさんの記事で懐かしくて胸いっぱいになり、逆にコメント出来ませんでした。ごめんなさい。
あの坂はキツイです。でも坂を下りると春には桜がとてもキレイです。今度は春に行かれてみたらいかがでしょうか。
「沈黙」は出てすぐさま読んだのですが、春樹の仕事の丁寧さに驚きました。あの短さにまとめ上げるにはきっと何回も書き直したと思います。内容も道徳臭くなくて高校生が読んでもシラケないどころか、私も高校生のときこの小冊子を読んだらとても刺激になったと思います。
私が気になる部分は、対談か紀行文で春樹が言っていたことですが、箇条書きにしますね。春樹がある国でウィンドゥ越しに一人の娼婦と目があった。春樹がその瞬間、激しく身体が揺さぶられた。彼女も同じことが起きていることがすぐに分かった。結局、わたしはその場を通り過ぎて行った。だがあれはとても不思議な現象だった。共振しあえるひとが世界のなかに必ずいて、出合ったならばそれは決定的に重要な事件だ。
というような内容だったと思うのですが、どこに書かれていたか思い出せないのです。。
「共振、共感とは何か」が春樹の重要なモチーフだと思うのですが、たまに春樹は、二人の関係を「細胞同士、遺伝子同士」が呼び合っている、というようなところまで踏み込むのです。それは私の好きな小説『国境の南、太陽の西』にも描かれていました。
私はここまで踏み込む春樹、ウィンドゥ越しに一人の娼婦と目があって、いまだに彼女も同じことが起きていると確信している春樹って「すごいな~」と思うと同時に、なんで思えるのか分からないのです。
私は、それは自分の気持ちを彼女に投影しているだけだと思えるんだけど、私って春樹よりもシラケてるのかなぁ~って悩んじゃうのです。もしかしたら読み違えたのかも、と思い、きのう錦糸町からoazoまで行って探したのです。
長いコメントになって本当にごめんなさい!では、また。

投稿: zuzu | 2004.10.26 21:37

zuzuさん、おはようございます!
胸突坂をご存じなのですね。
あの坂は急ですよね。私は駆けおりたことしかありません。
上るとしたらやっぱり胸を突き出してぜえぜえ言って上ることでしょう。私はどうも上り坂に弱いです。下り坂は大好きです。今度春にも行ってみますね。

「沈黙」の書かれた経緯を私はよく知らないのですが、zuzuさんのお話からすると、最初から小冊子向けに書かれたものなのでしょうか。高校生が読むのに適していると思いますが、大人にも読んでほしい作品ですね。今の私にはとても心に響きました。

zuzuさんの気になっていた部分。私はそれがどこにあるか今、見つけることができません。でも、言っていることはよくわかります。共振ですよね。共振、共感って、めったにおこることではないけれども、それはあるとき突然に必然的におこることだと私も思っています。

いまだに彼女も同じことが起きていると確信している春樹さん、すごいですね。彼女が実際、どう思っているかは、もう超越していることなのではないでしょうか。自分がそう思っていたら、そうなのだと思います。

その箇所を確認しに錦糸町からoazoまで行ったzuzuさん、すばらしいですね。その部分に早く出会えるといいですね。私も気にとめておきます。
では、また!

投稿: chiiko(zuzuさんへ) | 2004.10.27 07:21

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